969人が本棚に入れています
本棚に追加
ニック夫妻と別れた後、結界を再度展開し家を出た。
向かう先は、先ほど言った裏町とは別の、一般居住区だ。例の医者と会うためにそこへ向かう。
ライ曰く、気難しいくせに人懐っこい、美人なのに独り身、腕は良いのに仕事はしないなど、とりあえず悪評ばかり。
二番目の物は聞かなかったことにする。
「このあたりだな」
ちなみに、リサは連れてこなかった。
女性と関わるときにリサがいると碌なことにならないからと同伴を断ったのだが、言葉の選択を間違えたことにすぐ気がついた。
危険が予測されるなどと言ったら逆効果なのが予想できたために、とっさに考えた言い訳だったが、割と致命的だったかもしれない。
少し思考が脱線しかけたが、意識を目の前の複合住宅に向ける。
意識しなくても、ここから感じる質の良い魔力。
意識することで正確な位置を特定し、迷いのない足取りで向かう。
たどり着いた一室は、この階にあるほかの部屋と変わらない外観をしている。
しかし、明らかに違う点が一つある。
「旦那募集中!」と書かれた張り紙が、戸に張られているところだ。
正直この時点で引き返したいと思ってしまった。
これから出会うであろう人物は、確実に面倒なタイプの人間だ。
推測ではなく、確実にだ。
戸の前で暫し葛藤していると、当の人物が感づいたようで、玄関へ近づいているのが分かる。
都合が悪いわけではないのに感じる悪寒。
その理由はファーストコンタクトで判明した。
「遂に私に旦那が出来るのね?」
帰りたいです。
「じゃあミノレアス領、領主専属の医者になって欲しいと…」
「そういうことですね」
あのあと、荒ぶる猛獣を沈めて(誤字ではない)ようやく用件を伝えることが出来た。
今、医者の部屋にいるはずなのだが、気が抜けない。回りから獲物を見るような視線を感じる。
「ああ、気づいた?今あなたを全方位から観察してるの」
「……なんでだよ!?」
まあまあ、と宥められたが、貴女にされる筋合いはない。
「やっても良いけど条件があるわ」
「なんでしょう?」
「私の旦那にーー」
「帰ります」
「ちょっとちょっと、待って!じゃあ愛人で良いから?」
帰ろうとしたら必死の形相で捕まった。
「じゃあ、僕を惚れさせてみてください。手段も期間も問いません。回りに害をなさない限り何をしても良いですから」
最初のコメントを投稿しよう!