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◇ ◇ ◇
当校初日は、指導教官となった柊山に、学習計画を提出するところから始まった。
言葉少なに受け取った相手は、おそろしい早さで紙をめくり、目を通し、山ほどの指導を雨あられのように降って落とした。
概ね良し、と言う割には、手直しをするように言われる箇所の多さに頭が痛くなる。
これが大学での学習なんだ。見る人の目を通すと私の計画なんてザルで水をすくうようなものなんだわ。
「明日、改めて提出したまえ」と言われるまでの間は、時間にして半時間もあったかどうか。
メモの取り忘れはないか、聞き漏らしはないか。書き付けを確認し、計画の書き直しを手近な机を占拠して書き進めた。
後ろ手何人か人の動きがあったのは気付いていた。けれど、顔を上げる余裕がなかった。
昨晩かけた時間の倍以上の時を費やして、やっと書き上げた計画書。
久方ぶりに山ほど書いた利き腕は、疲れたというように親指と人差し指の先の感覚がなかった。
けれど、悪くない疲労感だった。
翌朝、昨日よりも早く登校した。
この時まで、昨日会い、一昨日見かけた鉄棒のチビ氏のことは忘れていた。が、扉の向こうには、昨日と同じ場所に、彼は座っていた。
昨日と同じ、おそろしい集中力で一心に本を読み、レジュメをとっていた。ペンを走らせる指もおそろしく速かった。
――君は僕にはかなわないよ。
夢の中で彼女を笑った彼の声が、頭の中をぐるぐる回る。
この世には最初から敵わない人がいるのかもしれない。他人がいようといなかろうと、ペースを乱されず、自分の学習に集中している。さらさらと紙の上を走るペンの音はよどみがない。
私、ここまで早く文字を書けないわ。
挨拶するタイミングを逸して、昨日と同じ席に着こうとした彼女に、顔を上げず、彼は言った。
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