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とりあえず、明日から忙しくなる。小母に早速知らせよう、小父にも。お礼をたくさん言おう。
けど。見合いを勧められたことだけは黙っているんだから。ふたりともお受けしなさいと言うに決まってる。
結婚なんて。冗談じゃない。小父さんの言う通りだわ、誰彼かまわず見合いを勧めているのではないかしら。
学籍を置くことを許してくれたのは感謝するけど、お見合いだけは御免被るわ!
勇ましく廊下を往く彼女は、ふと気付いた。男性にぶしつけな視線を送られなかったのはかなり珍しい。柊山は、信用できると思った。
だから、見合い話だけは勘弁して欲しかった。
いいわ、聞かなかったことにしよう。
彼女は明日から学び舎になる校内を、廻って歩いた。
学校の雰囲気は独特で、そして久し振りだ。
この学びの場に、学生として通える。
とりあえず、1年。
この1年で、多分、私は人生においての正念場を迎えることになる。
他人に負けるのは仕方ない。自分に負けたくない――
コツコツと足音を響かせ、校庭はどちらかしら、と足を止めた。
柊山がしつこく勧めた、将来有望だという学生がいるという。
どんな男だろう。
少し気になった、興味を惹かれた。
ちらり、遠目でもいいから、見るだけでも……
思いついたはいいけれど、すぐに首を横に振った。
考えてもみて。大学生か院生が、いい歳した大人が、校庭へ出て何をするの。
ひとり、遊んでいるというの?
ばかばかしい。そんな幼稚な人、こちらから願い下げだわ。でしょ?
くるりと行く先を変えて、一番大きな建物、講堂へ向かった。
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