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まさかね、あの人が柊山先生が言っていた、彼?
遠目だからよくわからない、けれど、小柄そうだ。とても大学を卒業した大人の男性には見えない。
なんだ、近くの児童か学生が紛れ込んできたのね。幸子はため息をついた。ホッとしたのか、がっかりなのか、自分でもよくわからない。
その人物が、鉄棒相手に体操を始めた。
軽い準備運動の後、最初のうちは低い鉄棒相手に、懸垂やら前転を繰り返す。逆上がりも何度も何度も。
まるでブリキ細工の人形のように規則正しくくるくる回る。
逆上がりが苦手な幸子は目を丸くした。
あんなに連続して回って、目が回らないかしら。
でも、きれいな動きだ。
相当慣れているのだろうな、と一目でわかるくらいに。
小柄な彼は、中段を飛ばして一番高い鉄棒に飛びついた。補助する人も誰もいないのに!
ハラハラして見守る彼女などお構いなく――もっとも、彼は誰か見ている人がいようとは思っていないだろう、低い鉄棒と同様にくるんくるんと回り出した。
何とも身軽に易々と繰り出される技は、見ているほど楽でも簡単でもないだろう。
なのに、とても楽しそうに回るのだ。
気がついたら、幸子は、校庭へ出、鉄棒の方へ足が向いていた。
もっと近くで見たいと思ったから。
身体の線がきれいだ、とわかるところまで来て、幸子ははっとする。
子供だ、学生だと思った相手からは、青年の香気が溢れていた。
大人の男性なのだと気づいた時、追う目はしっかりとした肩や小柄だけれど広い背中やしなやかな腰に向けられている。
どこ見てるの! 私!
何てはしたない!
一瞬見とれ、その原因に思い当たって、彼女は自分を叱咤する。
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