12人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、男が女を見て欲情するのと同じ視点だ。
あってはならない! 女性が男性の身体に時めきを感じるなど!
だって私は、先の形にもなっていない結婚で痛い思いをしているではないか。
その後も男性と――何をしたの?
彼らを嫌悪すると心に決めたのは私。
二世を誓わない、誰に元にも嫁がない。
もちろん、戯れでも本気でも恋をしないと決めたじゃないの!
なのに――目の前の青年に見とれるなんて!
でも、目を離せないのだ!
息をつくのも忘れて、見入った彼の演技が寸断された。
水が流れるように滑らかだった動きが、不協和音を醸すように崩れた。
――大丈夫なの?
そう思ったから、つい声を出してしまった。
「あぶない!」
彼女の声に応えるように、彼は遠く飛び、砂場に着地した。
その動きはエレガントさより強さの方が勝っていた。まるでチョウゲンボウかハヤブサが、小動物に襲いかかるようだった。
二拍以上遅れて、幸子は駆け出し、声をかけた。
「あなた、怪我はない?」
万歳をするように両手を突き出した彼は、その姿勢を崩さず言い放つ。
「今の、見てた?」
凜とした、通りの良い声が響く。
太くも低くも、甲高くもない、まるでテノール歌手のような耳障りの良い男性の声だ。大人の男の声だった。
けれど、口調は、何というか、横柄で、少し幼く聞こえる。
見かけと、声のギャップに戸惑う彼女は二の句が継げない。
彼女にかまわず彼は続ける。
「大車輪から着地まで、ほぼ完璧にやってのけたよ。どこに怪我する余地があるっていうの。これだから女はイヤなんだよなあ」
――何なの、この人! この言い方!
イヤなのはあなたの方だわ。
大の大人の言い草とも思えない。
子供だ、この人、本物の子供なんだわ。じゃ、それなりの対応しなければね。
幸子はムッとして静かに言った。
最初のコメントを投稿しよう!