【3】 出合い

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「は?」 何言ってるの、この人。おかしいんじゃない? そう言い返す前に、彼はさらに続ける。 「いいから。付き合っている人とか、許嫁、いるの?」 「そ、そんなこと、あなたに関係あって?」 ないでしょ! 気がついたら、本気で怒りかけて、幸子は言い返していた。 「いないんだね?」 覗き込む彼の目は輝いて見えた。 怒りが羞恥に変わるのは一瞬だった。 何て目で人を見るのかしら、この人。 とても楽しそうに、嬉しそうに見つめてくる。こんな風に見られたこと、夫になるはずだった彼にだってされたことない。 頬が一瞬に火照った。 ――うれしい。 何考えてるの、私ったら! とても慌てていたので、相手が他にも何か言っていたような気がしたが、全て頭の中から飛んで消えた。 残った一言は。 「いないなら、僕と付き合わない?」 火照った頬は、今度は別の感情にすり替わって紅くなった。 何なの、この人! 何て軽薄なの!! 不良? そうよ、不良よ! 男なみーんな、不真面目でいい加減!だから私は、ひとりで生きていく覚悟を決めたのよ。 しっかりする! 幸子! 自分を奮い立たせようと、幸子は、手に持った風呂敷包みで思いっきり、目の前の男の顔をぶっ叩いた。 そしてそのまま。 相手の反応お構いなしで、駆け足で校庭を後にした。 彼だ。 きっと、いや、絶対、柊山先生が言っていた、見合いを持ちかけられた男。 何て失礼な人なの! 何が将来有望な学者になる、よ。嘘でしょ! ちょっと顔がいいくらいの、チビで、失礼極まりない男だわ!! 帰宅する前に、辞去したばかりの柊山の研究室へ駆け込んだ。 相手の都合お構いなく、ノックして返答を聞く前にドアを開ける。幸い、室内は柊山ひとりだった。 幸子は入った勢いそのままで即答した。 「私、誰とも結婚しませんから! いいですね、ね!」 何度も念を入れ、相手の反応を待たず、入った勢いのまま出て行ってしまった。 この日のことを思い出す度、幸子は赤面する。だって、後にして思うと、大変失礼な駆け込み方だったからだ。
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