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◇ ◇ ◇
どうか、あのチビと二度と顔を合わせることがありませんように。
帰宅までの道々、幸子はプリプリ肩を怒らせながら歩いた。
帰宅して、小母に彼女の入学が仮に了承された話をし、喜んでくれた後も、プリプリしながら明日の準備をし、夕食の仕度をした。
そんな姪の様子を後ろから見ながら、小母はのほほんとした口調で(もっとも彼女はいつもそんな感じだったが)こう言った。
「幸子ちゃん、学校でいいことがあったの?」
「どうして?」
「だって、さっきからとっても楽しそうなんですもの」
どこをどう取れば、楽しそうに見えるというのだろう。
肩眉を上げて見つめる姪に、小母はふわふわっと笑った。
「幸子ちゃんの、生き生きした顔を見るのは久し振りよ。ここへ来てからは初めてじゃないかしら」
はっとした。
――そうだ、逃げるようにして小母の所へ身を寄せたのは、傷心を隠せないくらい傷付いていた頃。
何も問わず、今もって何があったのか聞こうともしない小母は、彼女をやさしく見守ってくれていた。
側についてくれている人を大切にできなくて、何の為の家族なの。
「あのね」幸子は切り出す。
「年下の男の子にね、付き合わないか、って言われちゃった」
「まあ、いきなり?」
「そう、いきなり。軽薄な男だから、思いっきり顔を張ってやったわ」
「まあー」
「だって、出会い頭にそんなこと言う人だもの。不良だわ」
「近頃は物騒だから、気をつけるのよ。幸子ちゃん、可愛いから男の人にもてるのよ。おばさん心配だわ」
可愛いのは小母のような人を言うのだ、つい微笑みたくなってしまう。
「で。幸子ちゃん」
「なあに」
「どこで会ったの」
「誰と」
「いやね、今言った、付き合おう、って言った人」
「ああ、大学で」
「今時の大学生は進んでいるのね」
「どうなのかしら」
「すてきな人だった?」
「すてき……」
言いかけて、瞬時に彼のことが思い浮かぶ。
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