【3】 出合い

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◇ ◇ ◇ どうか、あのチビと二度と顔を合わせることがありませんように。 帰宅までの道々、幸子はプリプリ肩を怒らせながら歩いた。 帰宅して、小母に彼女の入学が仮に了承された話をし、喜んでくれた後も、プリプリしながら明日の準備をし、夕食の仕度をした。 そんな姪の様子を後ろから見ながら、小母はのほほんとした口調で(もっとも彼女はいつもそんな感じだったが)こう言った。 「幸子ちゃん、学校でいいことがあったの?」 「どうして?」 「だって、さっきからとっても楽しそうなんですもの」 どこをどう取れば、楽しそうに見えるというのだろう。 肩眉を上げて見つめる姪に、小母はふわふわっと笑った。 「幸子ちゃんの、生き生きした顔を見るのは久し振りよ。ここへ来てからは初めてじゃないかしら」 はっとした。 ――そうだ、逃げるようにして小母の所へ身を寄せたのは、傷心を隠せないくらい傷付いていた頃。 何も問わず、今もって何があったのか聞こうともしない小母は、彼女をやさしく見守ってくれていた。 側についてくれている人を大切にできなくて、何の為の家族なの。 「あのね」幸子は切り出す。 「年下の男の子にね、付き合わないか、って言われちゃった」 「まあ、いきなり?」 「そう、いきなり。軽薄な男だから、思いっきり顔を張ってやったわ」 「まあー」 「だって、出会い頭にそんなこと言う人だもの。不良だわ」 「近頃は物騒だから、気をつけるのよ。幸子ちゃん、可愛いから男の人にもてるのよ。おばさん心配だわ」 可愛いのは小母のような人を言うのだ、つい微笑みたくなってしまう。 「で。幸子ちゃん」 「なあに」 「どこで会ったの」 「誰と」 「いやね、今言った、付き合おう、って言った人」 「ああ、大学で」 「今時の大学生は進んでいるのね」 「どうなのかしら」 「すてきな人だった?」 「すてき……」 言いかけて、瞬時に彼のことが思い浮かぶ。
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