11人が本棚に入れています
本棚に追加
朝は天気が良い日が好き。もしくは雨が好き。
曇天は何かと嫌な記憶を運んでくる。
今朝の天気はと言えば。
見事な鈍色の曇天だった。
雨でも降ればかわいげがあるのに、そんな素振りもない。一葉に雲に覆われた空は白かった。
幸先が悪い。
幸子は舌打ちしたくなる。けど。
彼女の名前の一文字を縁とする幸先が良かったことなんてしばらくあっただろうか。気にしなければどうということもない。
ぴかぴかに磨き上げられた鏡台の前で、右から左から映った姿を確認した。
うん、これで良い。身だしなみは完璧だわ。
一筋の髪もこぼれ落ちないように、もう一度髪を撫でつけて彼女は居間へ降りた。
そこには、貧しいながらも手をかけた朝食の仕度が整っている。
「おはよう、小母さま」
「おはよう、さっちゃん」
割烹着を着た、彼女によく似た面差しの中年の女性が声をかけてきた。
「今日はいつも以上におめかししているのね」
頂きますをし、茶碗と箸を手にしながら、幸子は答える。
「ええ、だって、今日はとても大切な日だもの」
「本当に」
目を細めて、増沢公子、つまり幸子の小母は言った。
最初のコメントを投稿しよう!