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◇ ◇ ◇
大学へは都電を使うか徒歩となる。
歩くと少し遠い所だから、できれば電車に乗りたかった。
でも。ぜいたくできないわ。
運賃分貯めて、書籍代や文房具代の足しにしよう。
小母手作りの弁当と一緒に向かった先、白鳳大学は私学の雄としてその名をとどろかせていた。
戦前まで男子学生以外入学できなかったのに、今年から女子学生も受け入れるようになったと聞いた。
だから、私はここにいられる。運が良かったわ。
昨日来た時は何とも思わなかったけど、校門前に立って見上げる空は、昨日と打って変わって晴天で、澄み渡っていた。
お天気屋さんと言われてもいい、けど、今日はいいことがありそうな予感がする。
いつまでも真正面から見上げたまま動かない彼女の脇を学生や職員達が通り過ぎていく。
振り返りもせず真っ直ぐ目的地へ向かう人が大半の中、何人かが彼女に好奇心の視線を投げてきた。
――悪目立ち、しないようにしないと。
男達の視線を全て受け流して、幸子は白鳳への一歩を進めた。
――負けられない。私、ここで勝ち残らないと今後はないんだから。
人目ぐらい何だって言うのよ。いくらでも見るといいわ。
つんと肩をそびやかして向かう先は、昨日面談に訪れた柊山の研究室だ。
小父から何度も聞かされていた柊山の評判を反芻する。
つい最近まで帝大で教鞭を執っており、人格者で、後進の指導には定評があり、公平な人。小父の言うとおりの人だ、しかし。
――見合いさえ勧めなきゃ、私には最もありがたい先生なんだけど。
つい笑いそうになったけど、慌てて口元を引き締めて、ドアを開いた。
そこには先客がいた。――彼女的には招かれざる客のような人物。
昨日、校庭で会った、夢の中で高笑いをしていた、あのチビがいたのだ。
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