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どれもこれもパッとしない顔だこと。少し――鈍そうだこと。
これが帝大にも並ぶと称される白鳳の学生達なのかしら。大したことない。
ひとりひとり名前と顔を確認した時、ひとりの学生が目に留まった。
ほんの数日前、彼女を柊山の研究室に案内した男だった。
あら、お仲間だったの。
相手も、彼女に気付いたようだった、驚きの後に上から下まで品定めをするように視線を走らせ、下卑た目で彼女を見る。
ぞくりとした。
彼女を見る大概の男は、まず彼女の身体を舐めるように見る。遠慮しつつだったり、無関心を装ったり、あからさまな興味を持った目だったり。そこで止まるのは、大概胸だ。そして、顔、口元、足首に移る。その後、腰や尻と腰を見る。
何を考えているのか、一目瞭然だ。
男は皆そうだわ。
この場で、隠すように胸を抱くこともできず、ツンと顎をそらせはしても心の内はぶるぶると屈辱で震えている。
人のこと、だたの胸が大きいだけの欲を満たす道具だと思っている。
おあいにくさま。あなたたちの好きにはならない。
棘を可能な限り収めて仕舞って、いつも以上に淑やかに礼をした、よろしく、と。
頭を下げながら、幸子は思う。
そう言えば、柊山は私を彼らのように見なかった。だから、安心して信じられるんだわ。
そして。シャクなことだが、幸宏はと言えば。随分とはっきりと、人をじろじろと見倒してくれたが、嫌ではなかったのだ。
――どうしてよ!
他の学生に混じると背の低さがよくわかる幸宏と、一瞬だけ合った視線を、はっきりツンと逸らして、彼女は朝座った席に、スタスタ歩いて行った。
「時間がもったいない。諸君。早速だが、始めてくれたまえ」
そうだ、今日はゼミがあると聞いていた。
柊山のひと声は、そのゼミの開始を告げた。
後から駆け込んできた学生諸氏の準備を待ちながら、彼女はメモとえんぴつを手にした。
大学のゼミに参加するのはこれが初めてだ。
今日は後ろで聞いているつもりだった。
シラバスはあらかじめ知らされていた。けれど、何をどうしたらいいのかわからないのだ、どう学習を進めたら良いのか、まったくの未知の世界。
お手並みを拝見したい。
柊山が自分の机につくのと、幸宏が席を立つのが同時だった。小さな黒板を前に、手にした書き付けを元に議題を挙げていく。
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