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子供のようでも、おどけてもいない、智の燦めきには心が騒ぐ。
この人、いろんな顔を持っているんだわ。
もし、論戦を戦わせたら、どんな切り返しをするのだろう。
知りたい。
彼女は視線を手元のノートに一旦移し、小さく咳払いをして書きつけた順に彼に質問を投げた。
最初のうちは言葉少なく、相槌を打つことが多かった幸宏の、返す言葉が多く、長くなっていく。
――もう場は収まっているんだ、終わっているんだ。
武が場を仕切っているのに、わからない女だな。
無言で彼女を責める圧力が、他の学生から浴びせられる。
かまわないわ。
私が話すのは、目の前にいるこの人だもの。
何度か応酬をした時だった。
「ええと、それは、どこで? 僕、そんなこと言いましたか」
彼は手元の書き付けや消し残っている板書を見直した。
「ええ」
幸子は遡って論点の要旨をかいつまんで述べた。
「ああ、そこ。確かに。仰る通りだ、二律背反だと、そう言いたいんですね」
「はい」
「わかりました、少し考える時間をくれますか。次までに君が満足行く回答を用意しましょう」
幸宏がそれでいいですね、と念を圧した時、そこまで、と告げるように柊山は机を一叩きした。
終了の合図だ。幸子以外の他の学生は三々五々席を立ち、柊山や幸宏、他の学生達に会釈をし、その場を後にする。
大半の学生は幸子を無視した。中には小さく、会釈を送る者もいたが、明らかに面白くなさそうな顔をしながら脇を通る者もいた。舌打ちもされた、招かれざる客だと言うように。
――出過ぎたことをした、という自覚があったから。無視は気にならなかった。舌打ちは、少し堪えた。
初めてのゼミだったのに。出しゃばったことしちゃったのかしら。
きっと頭を上げ、でも少し落ち込んで、ノートを片付けていた時だった。
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