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「君、面白い人だね」
テーブルの向かい側に立つ幸宏だ。
立つ足を少しずらして、片手を腰に、もう片手を机の上に突いている。
面白いと語る口とは裏腹に、彼の表情からは面白さのかけらも伝わらない。
真摯な瞳は、好奇心を語る。
知識欲に貧欲な、彼の期待に応えたことを物語っていた。
楽しかったね、と伝えてくる。
それは、彼女の今の気持ちも代弁していた。
「あなたもね」
思わずほころぶ顔に浮かぶ笑みは相手への賞賛を送る為のもの。
「これから楽しくなるよ」
彼女の前に右手が出る。相手と親交を深める為に差し延べられた手だ。
幸子に握手の習慣はない。一瞬、彼は男で、私は女だ、という考えが浮かぶ。
ばかね、ここでつまらない性差を理由にするなんて。
幸子も彼に倣い、右手を差し出した。
握られた手を握り返す。その手の平は、思ったより指が長く、厚く、固かった。
ペンだけではなく、ふたつの腕で身体を一本の棒の上で支えられる手の平。
たくさんの豆が彼の来し方を物語る。
見かけ以上にたくさんの努力を惜しまない、彼の姿勢に心惹かれた。
そして……温もりが慕わしかった。
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