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室内はがらんと広く、窓側に背を向けるように両翼の机が威厳を払う。
紐で縛られたままの書籍、半分以上空いている書架。まるでこれから引っ越すか、今引っ越してきたかのようだ。
実際に先頃帝大から移籍したばかりなのだという訪ね人である柊山は、初老の紳士で白髪を蓄えている。
白鳳と言うだけでも驚いたのに、帝大で教授をするような人と知り合いだなんて。小父さんは一体どういう人なの、と幸子は緊張した。
「野原幸子君――だね」
柊山は少し目線をあげて、手元の書類を見ながら言う。
「君のことは良く聞いている」
「はい」
席を勧められたが、そのまま、立ったまま彼の前にいた。
「増沢君とは昔からの知り合いだ。くれぐれも頼むと寄こしてきた」
小父さん、ありがとう、と彼女は視線を落とす。
「人からの頼みを反古にはできないが、私は贔屓も嫌いだ。君の経歴や、学校での成績を見る限りにおいては、我が校で引き受けるレベルに達しているとは、正直、言いがたい。本来ならお引き取り頂くところだが――」
「……はい」
つい、目に力が入り、口元が強張る。
――しっかりして、自分!
拳をぐっと握って、柊山からの言葉を待った。
「野原君と言ったね。判断に迷う時、決め手になるものは何だと思う」
「相手の人となり――ですか?」
とっさに答えた。
「初めて会った人間の、どこに人となりが出ていると思うかね」
彼女は返す言葉がなかった。
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