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「もっとも、私ぐらいの年齢になると、余程のことがない限り、第一印象を外すことはない。若い君たちは想像もできないだろうが、扉を越えて入った一瞬で、人の本性を見破ることぐらい訳はない」
ひやりとした。
私、どんな顔をしてた?
案内してきた職員に、失礼とも受け取られかねない態度を取ったのを見られたかもしれない――
内心の焦りを表に出さないようにつとめる。
「私の長年の経験が見る人物像と、紹介者の人となり。それが齟齬なくぴたりと合ってはじめて相手を知ろうという気にもなる。成績は二の次だ。君は紹介者に感謝しなければならない。私は君より彼を信じるからね」
「――はい」
侮辱されたと取れば良いのか、首の皮一枚で首が繋がったと感謝するべきなのか。わからず、彼女はともかくも相手の次の出方を待った。
「君は我が校で何を成し遂げたい」
「高みを目指します」
即答した。
「ほう」
「最高学府で学び、教えを授けるものになることを志望します」
「登り詰めたいということかな」
「はい」
「無理だろうね」
柊山はにべもなく言い放つ。
「何故ですか」
「何故、高みを目指す」
「山が高ければ高いほど、人は登りたいと思うものです。違いますか」
「違わないね」
「努力で勝ち得るものなら、挑戦する価値はあります。私は――」
「女だてらにやるわい、と言わしめたいのかな」
見破られている。
彼女は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
――そうだ、人を見返してやりたい感情の奥底にあるのは子供じみた意地だ。高尚な志があるわけではない。親を、結婚するはずだった男とその家族と世間に復讐をしたいだけなのだ。
自分は悪くない、正しかったと頭を下げさせたい。
その為には――人が羨むことを成し遂げないと意味がないのだ、自分の手で!
けれど、柊山を前にすると、自分は何て小さいんだろうと身の置き所がない。
メッキを剥がされていく、素の自分にどんどん近づけさせられていく気になる。
私――。
彼女はそれまで睨むように見ていた柊山の視線から、目を逸らさざるを得なかった。
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