【3】 出合い

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「君については、別の話も聞いている」 声をひそめるように柊山は言う。 「君は、私に言いたいことはないのか」 「そんなこと……」 幸子は言い淀む。 郷里を出たのも、実家へ帰らないのも、結婚したとも言いいがたい、先の婚礼の席での顛末が、まだ人の記憶に新しく、愉快な出来事として多くの人に知れ渡っていることを口にするのは苦痛だった。 郷里と東京は相当の距離がある。 けれど、人の噂話は千里を走るのなら、どこまでついて来てしまうのか。 小父の縁故だから会ったという柊山の腹は決まっている。私はきっとこの学校に通えない。 なら。柊山個人に軽蔑されても同情されても、どちらでもいいではないか。 本当につたない恋と、その結末を語った。 本当にお粗末だ。話していて余りの内容に自分が情けなくなる。 けれど、これが最後だから。 開き直り、洗いざらいきれいすっかりさっぱり話し尽くした。 柊山は始終、顔色一つ変えず、言葉も挟まず、最後まで聞いていた。 忙しい人に向かって。私、何をしているのかしら。 すっかり語り尽くした幸子は、今更ながら赤面する。 「つまらない話でお時間を頂きました」 恥だった。いたたまれなくなって彼女は礼にごまかして顔を伏せた。 「忘れることだ」 しばしの沈黙の後、柊山は言った。 「時が何よりの薬となろう。ひとりでも多くの人と会い、交わり、知ることだ。残念ながら君が接した人種と同類は少なくない。けれど、多くもない。固定観念を捨てれば自ずと道は開ける。縁も深くなる。君は若いのだから」 彼女は顔を上げた。
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