第23話

5/5
前へ
/240ページ
次へ
 速人がその階段を下ってみると、途中に商店の跡と思われる小さな廃屋があった。崩れかけているのではっきりとはわからないが、恐らく文房具や駄菓子が売っていたのだと速人は勝手に想像した。  きっと子供たちのたまり場だったんだろうな。  速人の小学校も裏門の近くに同じような店があった。友達たちと毎日、帰り道に寄っては駄菓子を買い、くじを引き楽しんだものだった。誰にでもあるような子供時代のノスタルジックな思い出。  そのまま階段を下ろうとしたが、先は森林ばかりのようだった。目をこらすとずっと先には民家らしい建物が幾つか見えるが、そこまで行くにはかなりの時間がかかりそうだと速人は判断した。  とりあえず階段を登り直し、再び校舎の周囲を散策する。人気の全くない場所を一人歩いているのは、多少気味が悪いものだが速人はそういった恐怖をあまり感じない方だった。その巨大な廃屋はそれ自体が生き物のように恐怖感を発していたが、むしろその雰囲気を楽しむように速人は歩き続けた。  あれは一体、何だ? 先ほど見た理科室の反対側の端のあたりに一本のロープが垂れ下がっているのが見えた。速人はそれに近付き手に取ってみる。綱引きにでも使われそうなかなり太めのロープだった。学校という場所を考えれば実際にそれ用のものなのかもしれない。速人が引っ張ってみるとどこかに固定されているらしくかなり力をいれてもたぐり寄せることは出来なかった。目でロープの先を辿ると校舎の壁をつたって上の方から垂れているのがわかった。恐らく上から下に降りるためにどこかに固定してあるのだろう。何故こんなものがあるんだ? 速人にはさっぱり訳がわからなかった。同時に上に何があるのか気になり始める。速人はそれを使って登ってみようとも思ったが、そろそろ時間がないことに気が付いた。  そろそろ帰っておいた方がよさそうだ。  そう思って速人は手にしたロープから手を離し、その場所を後にする。そのまま進み最初に来た校門のところまで戻った。そこで速人は振り返り、その廃学校をあらためて眺めてみた。  もっと探索してみたいという気持ちがあった。何となく心残りのようなものが心の中に存在した。  研修中の間に機会があったらまた来てみよう。  そう思いながら速人は廃校を後にし、宿舎に向かった。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加