第24話

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   生い茂る原生林の中の一本の細い道を速人は歩いていた。廃校から帰る途中、少しだけ横道に入ってみたのである。太陽の位置から宿舎の方向はわかっているし、来た道よりはずっとショートカットできそうな気がしたのだ。  自然の中で一人で長い時間歩いていると色々な考えが速人の心に浮かんできた。戦いに行った時に負ったトラウマなどが頭をよぎると頭を打ち振って消し去る。いくら考えても出ない答えは考えても無駄だ。ここ最近は、そう思うことで何とかそれに捕らわれずにいることが出来ていた。そして茜の顔が頭に浮かぶ。自然と自分の顔がニヤけてくるのを速人は感じて思わず苦笑する。辛いことを思い出す時は、それに茜の顔を被せれば自然と心が癒やされた。自分がこんなに短期間で彼女に依存していることが信じられなかったが、特に嫌でもなかった。むしろそんな女性に出会えて、なおかつ自分を好いてくれるという幸運に、速人は信じてもいない神様に向かって感謝したいくらいだった。  そんな風に速人が考えながら、半ば惰性で歩いているとその思考を遮るように誰かの話す声がかすかに聞こえた。廃学校からすでにかなり歩いてきていた。宿舎には大分近付いたはずなので誰かがいても不自然ではない。速人が背伸びして周りを見渡すと、少し離れた場所で人影が見えた。速人が立っている道から二十メートルほど右側にも道があったらしく、そちらの方から声が聞こえたようだった。今歩いている道も段々と右側に寄っているのでもう少し進めば合流するのかもしれない。  速人は特に気にせず先へ進んだが、先ほど声が聞こえた方がかなり騒がしくなってきていた。木や生い茂る草に隠れてはっきりとは見えないが争っているような感じを受ける。  何をやってるんだ? こんなところで喧嘩でもしてるのか。速人は無視しようと思ったが、一応止めておいた方がいいかと足を速めた。近付くにつれはっきり声が聞き取ることも出来たし、姿も見えた。男が三人。恐らく一対二なのだろう。
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