第24話

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 こいつは俺より速く動ける。  一筋の閃光と共に再びナイフが速人に迫ってきた。顔面を横に撫でるように振られたそれを膝を折り曲げダッキングしてよけると同時に右手で地面を強く掴んだ。手に土と草の感触を感じる。  そして掴んだその塊を男の顔面に思い切り投げつけた。男は顔面を両手で押さえ、悪態をついている。目くらまし成功。殺されかけている時に卑怯もへったくれもあるか。  速人はそのスキをついてボディへ右拳をめり込ませたが、ほとんどダメージを与えた様子はなかった。男は呻き声すらあげず、目を押さえながら片手でナイフを振り回していた。  こいつは普通じゃない。戦いに慣れている速人は素早く判断した。とりあえずここから逃げ出すべきだ。まだこの男と遭遇して一分間未満すらたっていなかったが、それが長くなれば長くなるほど命の危険が増すような感覚があった。  速人は宿舎の方角を確認すると、即座に全速力で走り出した。途中、何度か振り向いてみたが追いかけてくる様子はなかった。しかしあれだけの身体能力をもっているヤツだ。いつ後ろに迫っているかわかったもんじゃない。速人は油断せず宿舎に向かい走り続けた。  走りながら色々と考える。とりあえず逸見らに報告すればいいんだろうか? 警察とかにはすぐに連絡がつくのか? 見たところこの島には警察などはいないはずだ。  殺された二人には見覚えがあった。速人達と研修所から来た人たちだ。特に面識はなかったが覚えていた。殺した男は恐らく別のところからきたやつだろう。  森を抜け宿舎が見えてきた。開けた場所に出る前に一度、立ち止まり周囲を見回してみる。異様な雰囲気を彼は感じ取っていた。人々が走っている音と叫び声。誰かが何かに襲われている。  そのまま身を低くして様子を窺っていると、見知った人々が数人で宿舎から飛び出してくるのが見えた。国分寺で一緒だった研修生だ。一人は顔を血に染めて無我夢中で森の中へ走り去っていく。  何が起こってるんだ? 達也や茜たちはどこだ? 幾つもの疑問が頭をよぎる。  周囲に誰もいないことを確認すると、速人は宿舎に入ろうとした。近付くのは危険なのはわかっていたが、仲間たちのことが気になる。最初の一歩を踏み出そうとした時、右手の数十メートル離れた森の中から一人の男が姿を現した。慌てて体を屈めて再び身を隠す。
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