第24話

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 右手に大きなナイフを持っているのでさっきの男だと速人は思ったが、その顔を見た時に妙な違和感があった。少し離れているのではっきりとはしないが、その顔がさっきと違う感じがしたのだ。  しかもその顔は速人の記憶に別の人間として刻まれていた。最初にナイフで喉を切り裂かれた男の顔だったのだ。さっきは一瞬だったが、元々同じ研修所から来た仲間だ。顔は間違えようがない。死体を確認しにいければいいのだが、かなりの危険を伴うのは間違いなかった。  速人は静かに茂みから抜け出しその男を尾行することにした。いつの間にか宿舎の駐車場にはトラックや乗用車、バイクなどが何台も停められていた。遮蔽物から遮蔽物へ。姿を決して見られないように男の後を付けていく。  宿舎の入口近くで数人が立っていた。その中に逸見の姿も見える。速人が付けていた男はその集団に向かって近付いた。一瞬、逸見らは身構えたようだったが男が何事かを話すと安心したように迎え入れた。声が聞こえるところまで近付きたかったが、その分、危険も増す。大人しく覗いていると宿舎の中から続々と人が出てきた。人数が増えれば、それだけ目も増える。速人は少しづつ距離を置いた。  三十人ほどが集まった時、逸見が声を張り上げて言った。全員に向けてだったので少し離れている速人にもその声はよく聞き取れた。 「よし、研修開始だ。気の早いやつが宿舎内で数人を片付けたが、ほとんどが森の中へ逃げていった。諸君はそれを効率よく排除すること。誰かに変身してヤツらの内部に入り込めればポイントは高いぞ。変身した場合はちゃんと仲間に周知しておくように。味方同士で殺し合いした例もあるからな。もちろん獲物からの反撃も予想されるが、それでやられるようならこれからの役には立たん。もし生け捕りにした場合、それをどう使うかも君たちの自由でいい。しかし最終的には全員を殺害することが目的だ。同じ人間が二人いちゃいけないからな」  最後の言葉に大勢の笑い声が続いた。  〝殺害〟って言ったか今? 「例年だと合格者は約半数だ。しっかりやれよ。それと宿舎内で殺した後始末は当事者がやっておくように。夕方までに片付けておけ」
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