第22話

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   その島はとても美しい場所だった。正確な面積は分からないがかなり広いだろう。ほとんど開発などされていないのか、島の大半は森林に覆われていた。所々に古びた建物が散見されるのは、人が住んでいた頃の名残なのだろう。船を降りてから宿舎に向かうバスの中で聞いた説明によると、二十年くらい前にはこの島にも五百人ほどの人々が住んでいたと言うことだった。あまりの不便さに過疎化が進み、最後には集団移住して無人島になったらしい。  八尋速人はこの忘れられた島に、仲間たちと共に会社の研修で訪れていた。 「さて、どんなやつらがいるんだろうな。男ばかりってのは勘弁して欲しいが」  隣に立つ福永達也の言葉に速人は苦笑して頷く。  彼らが今いる建物はこれから一週間を過ごすことになる場所で、ちょっとしたホテルのような建築物だった。駐車スペースが建物の前に二十台ほどあり、三台ほどのRV車が今もそこに停まっている。建物自体は長い平屋の上に塔が刺さっているように見える。真ん中部分だけ五階建てで残りの部分は全て一階建てだった。横幅は百メートル以上ありそうである。  速人ら研修生は到着してすぐに、二百人以上は優に入れそうなこのホールに案内されたのだった。  普通のホテルならば結婚式でもしそうな場所だ。もっともここは一応研修所ということなので、セミナーといった方がいいのかもしれない。まもなくこのホールで、他の研修所からきた人たちとの交流会が行われるということだった。  船から下りる直前に、逸見から先客がいることを聞かされていた。速人たちは西国分寺の研修所から来たのだが、全国各地の研修所からも同じように研修生が集まるという説明だった。急に決まったのか、それまで何も知らされていなかったが、速人は特に気にしなかった。組織に属していればこんなことはよくあることだ。  逸見がホールの前方に移動し、マイクを使い全員に向かって話した。 「みんなちゃんと人脈を広げておけよ。これからの財産になるからな」  十分ほど雑談して待っていると、携帯が全く使えないことに気が付いた。考えてみれば当然である。もちろんWi-Fiなども使えるわけはなかった。周りからは「最悪~」などと声が聞こえたが速人はほとんど気にしなかった。別に構いやしないさ。
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