第22話

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 そのうちに室内に速人たちが入ってきたドアからスーツ姿の男女が続々とホールに入ってきた。人数は五十人くらい。速人たちがちょうど五十人なので同じくらいの数だった。浮ついた様子はまるでなく静かに整然と歩いている。  無個性なやつらだな。何となく速人はそんな感じを受けたが、すぐに考え直す。達也やニコなどと一緒にいれば誰を見たって無個性に見えるはずだ。  ザワついていたホール内に静寂が訪れるが、どこにでも社交的な人間はいるもので、すぐに二つの団体は混じり合った。あちらこちらで挨拶と自己紹介が始まる。  さっきまで隣にいたはずの達也がいつの間にか女性のグループに笑いながら話しかけているのが速人には見えた。まったく素早いやつ。  速人が自分の恋人である上本茜の方を見てみると、彼女が見知らぬ女性と話しているのが見えた。お互いに自己紹介でもしてるのだろう。笑顔で頷きあっている。  交流会があると聞かされた時、達也や仁科などは、また新しい女性たちと知り合えると喜んでいたが、速人にはどうでもいいことだった。むしろ面倒だと思う気分の方が強い。速人の心は茜で満ちており、ほかに女性が入り込む余地は残されていないのだ。  今、速人の目には初対面の女性が二十人ほど見えているが、不思議なことにどれもこれも同じようにしか見えなかった。  どうやら俺は完全に茜に参っているらしい。  速人がそんなことを考えてウロウロしていると、見知らぬ男が近付いてきた。身長はニコに近いくらいの大男であった。しかしニコと違って強面ではなく、温和そうな顔をしていた。その男は速人の前で会釈し型どおりの挨拶をする。速人も同じように挨拶をした。 「黒田と申します。北海道支社から来ました」  男はそう名乗り、速人の目の前に右手を出して握手を求めてくる。速人も自分の名を名乗り、握手に応じた。男はがっちりと速人の手を握り、なかなか離さなかった。  おいおい、俺にはそんな趣味はないぞ。 「おっと、これは失礼しました」  些か長すぎる握手だと感じたのが顔に出たのか、黒田が慌てて手を離した。 「それでは、また。何かありましたらよろしくお願いします」  そう言って逃げるように速人の前から去っていく。なんとなく気色悪さを感じながら、周囲を見渡すと色々な場所で同じような光景が見られた。握手のオンパレード。
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