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達也や仁科などは率先して女性と握手を繰り返しているようだ。驚いたことにニコですら握手を求められてぎこちなさそうにそれに応えていた。川井はペコペコとお辞儀しながらせっせと求められるがままに握手をしている。
その時、ふとあることに気付く。竹本久美子と三上涼子の姿が見えないのだ。久美子はどうもここ数日、体調が優れないらしいが、さっきまでは二人ともいたはずだった。
どこにいったんだ? 速人は少し気になり、近くにいた網谷彩菜に尋ねてみる。
「彩ちゃん、久美子ちゃんたちはどこか行ったの?」
「ああ、八尋君。久美ちゃんは気分が悪いらしくてさ、部屋で休んでるって。涼子さんは付き添い」
彩菜が心配そうな顔をして言った。
「そんなに具合悪いの?」
「どうだろう。久美ちゃんさ、体調だけじゃなく、最近何か元気ないんだよね」
それは速人も感じていたことだった。達也とそれについて少しだけ話したが、二人で出した結論は男には存在しない痛み、つまり生理痛なんじゃないかというものだった。
「何か心当たりある?」
生理なのか? とは流石に聞けなかったが、速人は彩菜に尋ねてみる。
「ないなあ。特に何もなかったし」
彩菜は一生懸命に考えているようだったが、何も浮かんでこないようだった。
「だよな。まあ、そんなに心配することないか。船旅で疲れただけかもしれないしね」
「そうだよね。あっ、八尋君あそこ見てよ。茜さん、大人気だよ」
彩菜の指差す方向を見ると、茜がたくさんの人々に囲まれているのが見えた。笑顔で対応しているが少し困っているようにも見える。
「うーん、やっぱりこういうとこでも差が出るかあ。わたしのところはよく知ってる八尋君だけだもんなあ。でも、さっきカッコいいお兄さんが挨拶に来たんだけどね」
「へえ。よかったじゃん」
「でもね、さっさと握手してどこかへ行っちゃった。まあいつものことです。ほら八尋君、茜さんとこに行かないと。誰かに取られちゃうよ。結構カッコいい人いるしさ」
殊更、悪戯そうな顔をしながら彩菜が煽り立てる。
「お前なあ、年いくつだよ?」
「二十歳でーす」
「微妙にさばを読まない。確か大卒だっただろ。大体、俺が茜のところへ行ってどうするんだよ。隣でアホ面さらすのが関の山だって」
小さく舌を出して彩菜が笑って誤魔化す。
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