第23話

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 流石にこんなことにみんなを付き合わせるわけにはいかない。廃校を見に行きたいなんて酔狂なやつは他にはいないだろう。しかもかなり遠いはずだ。ニコあたりなら頼めば付き合ってくれそうだが、一人で行くことを速人は決めていた。 「そんなとこ行って何するんだ、お前は」  達也が呆れた顔で尋ねる。 「いや、別に。何となく見てみたいなあと思って。そんなのなかなかないだろ。廃校なんて」 「廃屋マニアだとは知らなかったな。まあいい。一般人の俺たちは浜辺でも散歩してるさ」  そう言って達也はみんなの方を振り向いた。 「誰か、速人の隠れた嗜好に付き合うってやついる?」  予想通り誰一人、付き合う人間はいないようだった。茜ですら苦笑を浮かべていた。 「俺は一人で行くから大丈夫。結構歩くだろうし。とりあえず夕食までには戻るからさ」  そう言って速人はみんなと別れて歩き出す。すると後ろから茜の声が聞こえた。 「あんまり危ないことしちゃダメだよ」 「まるっきり母親だな、茜ちゃんは」  達也のからかう声も聞こえる。全くその通り。  速人は振り向かずに右手を挙げて応え、そのまま歩き続けた。  バスで来た道を速人は一人、歩き続けた。正確なところはわからないが、その建物を見た時から二十分ほどで宿舎についたはずだったので、徒歩ならば一時間くらいで着くはずだった。  途中で古びた看板のようなものを見付ける。それはほとんど錆びていたが、何となく近辺の地図のように見えた。やはりこの辺には集落のようなものがあったらしい。  そのまま進んでいくと、ほとんど崩れかけている廃屋や、元は倉庫か何かであったであろう建物が何軒か道路沿いから見えた。恐らく動かないであろう年代物の車が捨てられているのも見付けた。  錆びて読めなくなったバス停の標識や、元は何かの商店だったのだろうか、速人の見たことのないような看板が幾つか掲示されている建物など興味深いものがたくさんあった。  途中で見付けた民家の庭は草が伸び放題で、まるでジャングルの中に普通の家が埋まっているように見えた。その家は比較的、劣化が進まなかったらしくそれなりに家の体裁を保っている。速人が近付くとこんもりと茂った草むらのなかに一台の三輪車が打ち捨てられているのが見えた。恐らくこの家には幼子がいたのだろう。その子は今、どのくらいの年齢かなとふと考えてみる。
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