第23話

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 周囲の草花の鮮やかな色と、錆びてくすんだ廃屋の色とが絶妙なコントラストを醸し出していた。朽ちかけた人工物の周りを自然の作り出した植物が覆い被さっている。所々に人間が住んでいたことの痕跡が存在し、それが速人に切なさのようなものすら感じさせた。  そのように色々と寄り道しながらだったのと、もともと適当な記憶で歩いていたため目的地に着いたのはみんなと別れてから二時間ほど経過した後だった。  速人の予想通り、そこは廃校になった校舎であった。校門らしきものを見ると小学校と中学校が一緒になっていたようである。といっても人口が少なかったからであろう。せいぜい普通の小学校一つ分くらいの建物しかなかった。校舎はせいぜい二階か三階建てであろう。校庭には錆びてボロボロになった遊具が点在していた。  速人は建物の側に近付き、割れた窓から中を覗いてみた。そこは元々は教室か何かであったのだろう。小さな机が乱雑に並べられていた。壁は今やボロボロで何も貼られていないが、当時は生徒の書いた絵などが所狭しと掲示されていたはずだ。黒板にはピンクのチョークで〝さようなら〟と書かれていた。  速人は中に入ろうとしたが、何となく気が引けてやめておいた。その代わりにと周囲をグルリと回ってみる。校舎に沿って歩いて行くと、すぐに一番端の教室に辿り着く。そこで速人は何か違和感を感じて立ち止まった。  その教室はどこか変だった。窓際に戸棚や机、椅子などが積み重ねられ窓から中に入れないようにしていた跡があった。まるで誰かが中に閉じこもっていたかのようだ。何故かその教室だけは窓ガラスが全て割れていた。窓際のバリケードらしきものは幾つか穴が開いていてたくさんの隙間があった。その隙間から中を覗いてみると理科の実験室のような部屋だった。戸棚にビーカーやフラスコが置いてある。その部屋の入口は一つしかないらしく、その扉の前にも机や椅子が適当に積み重ねられ扉を塞いでいた。  この部屋で何が起こったのだろう。速人は気になったが知る術はない。何か不思議なものを見たと感じたがそれ以上は深く考えなかった。  そのまま歩き続けると、ちょうど正門の真裏にあたる場所に辿り着く。そこには小さな門があり、緩やかな下りの石段に続いていた。
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