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市場の一角。目深にフードを被った人物が歩いていた。キョロキョロと立ち並ぶ店を見渡して、何かを探しているようだ。
「花……宝石……」
ブツブツと呟いているが、目当ての物は見つからなかったらしい。息を一つついて、路地裏へと入っていった。
路地裏を少し行くと住宅地が立ち並んでいる。古びた建物の遥か上の方から朝日が差し込んでくる。
彼は空き地の塀に腰掛けて、フードを取った。金の髪が日に輝く。力強いその瞳は髪と同じように金の色をしていた。目的が果たせなかったからか、その表情には少し疲れが浮かんでいた。のんびりしている時間はないが、ずっと歩き通しだ。少しだけ休むことにした。
ふと視線をやると、一軒の家から沢山の人が出てきた。その人々は一様に黒い服を着ている。誰もが暗く沈んだ表情をしていて、涙を浮かべる人もいた。
「ママァー!」
棺に縋り付いて泣く少女がいた。葬儀が執り行われるようだ。彼はそれをぼんやりと見つめた。古い記憶が蘇る。
刹那、込み上げてきた熱を彼は止めることができなかった。
ボッと彼の掌から火が上がる。
「イーグル!」
そこに駆け込んできた人物がいた。漆黒の髪を持つその人物の額には、汗が滲んでいる。みるみる炎に包まれていく彼を見て、慌てて駆け寄った。
「いけない……!」
その人物が手をかざすと、燃え盛る彼の周りの空気が変わった。その部分だけ見えない何かに覆われているかのようだ。しかしなお、彼は苦しそうな顔で火に包まれている。
「うぅ……人酔いした……」
そこに青い顔で角を曲がってきたのは、レインだった。火だるまの人物が目に入り、驚いて足を止めた。耳の上で二つに結ったダークブラウンの髪が揺れる。
「あ……か、火事!」
レインは両手の掌を彼に向けた。その蒼い瞳に力強さが宿る。
すると、大粒の雨が降ってきた。彼の頭上だけに。
火は消え雨も止む。金の髪の彼は呆然としていた。傍にいた人物も驚いた顔でレインを見ている。
「あ……大丈夫でしたか?」
二人に見つめられて、レインは焦って聞いた。しかし返事をすることなく、頭から雫が滴り落ちている彼は、ふっと倒れてしまった。
「イーグル! イーグルしっかり!」
傍にいた人物が慌てて彼を抱きとめ、彼の名を呼ぶ。レインは訳も分からず、ただ立ち尽くしていた。
*
焦げ付いた臭いがする。慣れ親しんだ臭いだ。
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