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一生この塔から出られないかもしれない。それも仕方がない。
この火は全てを焼き尽くす――。
そこではっと目が覚めた。
「あ、気が付きました? 今、アルトさんを呼んできますね」
そう言って彼女の手が離れていった。
ドアが閉まって彼女の姿が見えなくなってからも、イーグルは横になったまま彼女が消えた先を見つめていた。
(誰だ……?)
見覚えのない顔だ。しかしまだ掌に彼女のぬくもりが残っていて、イーグルはその手を見つめた。久しぶりによく眠れた気がする。
ギィっと重たい音を立ててドアが開き、従者のアルトが入ってきた。
「イーグル、具合はどうです?」
後ろにさっきの彼女も続く。イーグルは簡素なベッドに身を起こした。
「あぁ、悪くない。ぐっすり眠れた」
アルトはほっとした顔を浮かべる。しかしすぐにきっと眉を吊り上げた。
「なぜ勝手に街へ行ったのですか! 大事になったらどうしてたんですか!」
突然の大声に頭がキーンとなる。イーグルは街で自分の力が暴走したことを思い出した。
「そういえば俺、火は……?」
アルトはふんっと息を一つつくと、後ろを振り返った。
「イーグル、紹介します。こちら助けていただいたレインさん。雨の魔術師です」
この世界には魔術師と呼ばれる者が存在する。
魔術師は風や水など、一つの物体を操ることができる。血筋は関係なく、どのような法則で魔術師が生まれるかはまだはっきりしていない。生まれてから三歳頃にその力は出現し、魔力を持った人間は魔術師として生きていくことになる。
レインは雨の魔術師、イーグルは火の魔術師だった。
「レインさんが通りかからなかったらどうなってたことやら……。まったく、あなたは反省してるんですか!?」
叫ぶアルトにイーグルは耳を塞いで顔を背ける。そしてレインの方を見た。
「助けてもらったようで申し訳ない。ありがとう」
「いえ……」
レインはふいっと目を逸らす。そっけない態度にイーグルは面食らう。何か悪いことをしただろうか?
「時にイーグル、火の力はどうです?」
問われてイーグルは目を瞬かせる。彼の力は十八を超えてなお不安定だ。大きすぎる力を持て余している。イーグルは自分の掌を見つめた。
「そういえば……落ち着いてるな」
それは今までになかった感覚だった。身の内で暴れる力が、今は凪いでいる。
「やっぱり……」
アルトはぽつりと呟いた。
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