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「イーグルの力は並大抵のものではありません。それこそ私が抑えるのも精一杯なくらいに」
アルトは大気の魔術師である。その力はこの国一だ。
「ですがレインさんはあなたの火を消すことができました。そこで、です。あなた今眠ってましたよね?」
「それが何か?」
「燃えてません」
アルトは塔を指した。言われてイーグルの目は見開かれる。
毎夜、イーグルの力は暴走していた。自我を保てる日中は平気だが、寝ている間はコントロールが利かないのだ。周囲を火の海にしてしまう。
だからこそ、この石造りの塔に軟禁されていた。火の力が暴走したとき、塔の酸素が尽きるまで閉じ込められている。薄くなった空気の中で、ただ火が消えるのを朦朧と待つことがイーグルの日常だった。
しかし先ほど、イーグルは「ぐっすり眠れた」と言った。周りが燃えた痕跡もない。
「手を、握ってたんです」
イーグルがアルトの後ろに視線をやった。それまでずっと黙っていたレインが口を開いた。彼女は自分の右手をじっと見つめている。
「あなたの手を握っていると、不思議と落ち着きました。これは何なんでしょう?」
アルトがかつんと靴を鳴らして、レインに向き直った。
「火と水は相反するもの……。お互いがお互いの力を抑制し合っていたのでしょう。イーグル、あなたいつもレインさんの手を握ってなさい」
「はぁ!?」
「肌が触れ合うことで効果は増すようです。あぁ、もちろん寝るときは絶対ですよ」
「えぇ!?」
今度はレインも声を上げた。
アルトはふんっと鼻息荒く言う。
「聞けばレインさんも自分の力をうまく扱えなくて王都に来たというじゃないですか。レインさん、この条件を飲むのなら、この国一の魔術師である私が、直々に魔力の扱い方をお教えいたしましょう」
二人に拒否権などなかった。にっと笑うアルトに、二人は黙って頷くしかなかった。
*
ピチチチ、と鳥が鳴いている。外は爽やかな晴天で、しかしこの塔だけは薄闇に包まれていた。
レインはその薄暗い中、目を覚ました。しばらくぼーっと隣で眠る人の顔を見つめる。左手がしっかりと握られていた。
「わぁ!」
ようやく状況を把握して、飛び起きた。その拍子にイーグルがベッドから転げ落ちる。
「いった……。あ、レインおはよう」
イーグルが頭を抑えながら起き上がる。レインはベッドの上で顔を真っ赤にしていた。
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