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出会ってから三日。レインはどうにもこの状況に慣れずにいた。朝起きたら隣に男の人がいるのだ。田舎でひっそりと暮らしてきたレインにすれば、慣れるはずもない。魔力の師匠であるアルトの言い付けだから仕方がないが、この先慣れるとも思えなかった。
レインは小さく溜め息をつく。ダークブラウンの長い髪を、耳の位置で二つに括った。
そこにノックの音が響いた。アルトが顔を覗かせる。
「おはようございます。イーグル、レインさん。朝食の準備ができていますよ」
二人はアルトに続いて塔を出た。
塔の傍には小屋がある。イーグルとアルトは、昼間はここで過ごしている。夜だけは力が暴走するので塔の中だが。
この国一の魔術師であるアルトを目当てに王都に出てきたわけだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。
「あの……アルトさんとイーグルはどういった関係なんですか?」
その問いに二人の動きが止まった。パンを持ったまま目をぱちくりさせてレインを見つめる。
「どうって……」
「魔術の師匠と弟子じゃないですか?」
一見したところ、イーグルの方が態度が大きい。しかし魔力をコントロールできないイーグルに、この国一の魔術師であるアルトが師匠として付いている、というのはもっともな話だった。レインの目にはアルトがイーグルを敬っているようにも見えたが。
「まぁ、そんな感じだな」
イーグルはまたパンを食べ始めた。
どうにもこの二人の関係は分からない。しかし目当てだったアルトに出会えたからまぁいいかと思うことにして、レインは二人と同じようにパンを食べ始めた。
「さてレインさん」
三人は小屋の前に出ていた。アルトに向かい合ってレインとイーグルは立つ。その手はしっかりと握られていた。
「あのぅ、アルトさん」
「なんです?」
「この手はいつまで繋いどかなきゃいけないんですか? 寝るときだけって話じゃ……」
アルトはなんだそんなことか、という顔をした。
「起きているときはイーグルの力も安定してますけどね。繋いでいて安定するならその方がいいでしょう。レインさんの力も安定してるんじゃないですか?」
問われてじっと手を見つめる。確かにいつもより穏やかな気持ちだった。自分の身の中でうごめく力が、ここに来てから落ち着いている。
アルトの言うことも、もっともかもしれなかった。
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