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「では始めましょう。お二人の力は互いに互いを相殺します。はい、ではお互いの力をぶつけ合ってください」
「は?」
「おい……」
二人はぽかんと口を開けた。アルトは気にせずにこにこ微笑んでいる。
「イーグル……さすがにそれは大雑把過ぎるだろう……」
イーグルは頭を抱える。その隣でレインは口をぱくぱくさせた。
「ま、魔法の訓練ってそんなざっくりしたものなんですか……!?」
アルトは笑顔をレインに向ける。
「レインさんは今までどんな訓練を?」
「……です」
レインは俯いていた。その声はとても小さく、アルトの元まで届かなかった。
「え?」
「したこと、ないです……」
これにはアルトもイーグルも驚いた。
「それで……あんな力が……?」
暴走しがちとはいえ、十年以上訓練しているイーグルだ。その力の暴走を何の訓練もしていない少女が止めた。俄かには信じられない話だった。
「レインさん、あなた今までどんな生活を……」
少し強張った顔で尋ねるアルトに、レインは顔を強張らせた。イーグルはその変化を見逃さなかった。
「アルト、まぁいいじゃないか。始めよう」
話を逸らしてもらってレインはほっと息をつく。イーグルはレインの手を離し、距離を取った。そして向かい合う。
「周囲には大気の壁を張ってますので、思いっきりやっちゃっていいですよ。危険だと感じたら私が補助しますので」
アルトはレインに向かってにこっと笑った。
レインの胸に不安がよぎる。
――できるだろうか……?
これまで最大限に力を使ったことはない。
抑えて、抑えて。また、あんなことが起こらないように……。
そう思って力を封じ込めてきた。あの時イーグルを助けられたのも奇跡だったのだ。
レインは目を閉じて、大きく息を吸った。そして吐き出すと、イーグルを見やった。
「お願いします」
イーグルの右手に火の玉が上がった。ひゅっとレインに向けて放つ。レインは右手を大きく掲げてそして勢いよく振りかざした。同時にシャワーのような雨が降り注ぎ、火を消す。
「イーグル、何を遊んでるんです?」
アルトの冷たい声にイーグルは小さく舌打ちした。
「っつったって昨日今日出会ったやつに本気出せとか……」
「いつまでもこんな生活を続ける訳にもいかないでしょう?」
イーグルはもう一度舌打ちをする。
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