第1章

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「もう一度始めから」 文庫を閉じると住人がくぐもった声で囁いた。 ある予感。 嫌な予感。 彼女ではないから眠れないのか。けれども、 渡された文庫本のスピンという栞のあかい紐は最終ページにあった。 最初に何処からという問いには始めから という答え。 会社に業務報告の義務はあるが、 客の性癖は従業員間でも建前上、 秘匿とされている。 住人は眠らないのだ、 恐らく。 もう一度始めから、 を繰り返すのだろう。 そうして、 もう一度物語は紐解かれる。 映し出された重なりあう影が薄くなって、 境界を亡くし消えて無くなるまで。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加