第1章

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超高層階の住人は変人だった。 変態ではない。 行為は至って普通。 暴力をふるう客や道具を使用する客など、 厄介な輩の類いに比べれば。 毎週火曜になると部屋に呼び出される従業員が会社にいる。 何が気に入られているのかは知らない。 なぜか火曜日ではない急な指名で、 どうしても都合のつかなかった彼女の代用人員である。 仕事は寝物語、 読んで字の如し。 客が眠りにつくまで、 本当に物語を読んで聞かせる。 朗読稼業のおかげで、 無意味に漢字は得意だ。 住人の部屋の窓にはカーテンがない。 高層故に外から覗かれる心配がないからか単に無頓着なのか。 太った月に照らされて、 シーツにくっきりと二人分の影が映し出されている。 毎回同じ人物を指名している割りに、 骨張った膝枕で文句も言わないのだから、 性別はどうでもいいらしい。 指定された物語は住人所有、 極薄で年季の入った文庫本。 幼い姉弟と青年が登場するくだりで、 住人は瞳を閉じた。 そのまま最後まで朗読を継続する。 以前から思っていたことなのだが、 登場人物の父親は諦めが良すぎるのではないだろうか。
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