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「もう一度始めから」
文庫を閉じると住人がくぐもった声で囁いた。
ある予感。
嫌な予感。
彼女ではないから眠れないのか。けれども、
渡された文庫本のスピンという栞のあかい紐は最終ページにあった。
最初に何処からという問いには始めから という答え。
会社に業務報告の義務はあるが、
客の性癖は従業員間でも建前上、
秘匿とされている。
住人は眠らないのだ、
恐らく。
もう一度始めから、
を繰り返すのだろう。
そうして、
もう一度物語は紐解かれる。
映し出された重なりあう影が薄くなって、
境界を亡くし消えて無くなるまで。
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