911追憶

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5.ナイアック 渋滞もなく対岸に着き、 少し北へ行くとナイアックの町。 川に突き出た岬のような一角に 数件だけ、レストランがあった。 レストランといっても、 小さな質素な食堂といった感じだ。 本当においしいの? 笑顔でなにも答えずに、 ユージンはレストランの前の広場に、 車を止めた。 「ビーチェ」という名前のレストラン。 ユージンはそっと私の肩に手をかけ 二人一緒に中に入った。 混んでいる店内。 予約しないと入れないような人気の店らしい。 渡されたメニューには 何種類かのリゾットが 写真入りで紹介されていた。 ユージンはチキンのリゾット、 私は写真から、 色彩豊かな海鮮のリゾットを選んだ。 「熱いから気を付けて」 親切なユージンは言う。 気を付けて食べてみると おじや風でもなく、雑炊とも違う、 大きなエビとイカやムール貝などに交じって お米が、ひと粒ひと粒、 スープの中に独立して存在している。 今まで食べたことがない コクのあるリゾットだった。 ユージンはプロだから、 ここのリゾットは、 ほかに類をみないほど、 巧みに作られていると言った。 確かに、これがリゾット?  初めての味。 そして最高の誕生日。 「ありがとう、ユージン。  ニューヨークへきてはじめてのうれしい誕生日」 リゾットとカプチーノを満喫して、 また橋を渡って ターリータウンへ戻る。
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