911追憶

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6.ハドソン川 車に乗る前に、ユージンは ハドソン川の向こう岸を指して、 「見てごらん、  さっき通ってきたボクの故郷は  あの辺り」 澄んだ空気の中で 対岸がはっきりと見えた。 ハドソン川は広い。 海と錯覚してしまいそう。 「この川はね、  冬は凍ってしまうこともあるんだよ。  凍ると、川の上を歩けるんだ。  ボクも歩いたこと、ある」 歩いて向こう岸まで渡った人も いるらしい。 子供だったユージンの姿が目に浮かぶ。 私とは違う国、違う世界で 育ったユージン。 幸せな家族と、きっと幸せな幼少期。 私もそうだったはずなのに。 気が付くと、家族と離れ、 一人でこんな遠くに来てしまっている。 「どうしたの?」 「なんでもない」 笑顔に安心して  ユージンは私の手をとった。 すぐそこにある車まで、 恋人つなぎで歩いてく。 ユージンの手はあたたかで このままずっと、時間よ止まれ~。 もう一人ぼっちじゃないんだ、私。 「日本を思い出してたの?」 「ちょっとね」 「ホームシックなんだ」 からかうように笑ったユージン。 はじめてだった。 こんな風に日本を思い出したのは。
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