親と過去

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side 康介  それからしばらくしたった頃。  四月なんて遥か昔に感じられる、ゴールデンウィークも終わり五月病が睡魔を誘う今日この頃。  先生は相変わらず律に付きっきりで俺は相も変わらず学校には行かず毎日律の元へ顔を出し、母さんは週に一回は必ず律に会いに行く、そんな毎日をいくらか繰り返し、それが当たり前になっていたそんなある日のことだった。  俺は今日もここに来た。  朝、面会時間とともに律の病室に足を運んだ。  それからいつもは面会時間ぎりぎりまでそこにいて先生とくだらないこと話したりいつの間にか母さんが入って三者面談が始まってたり。  皆律の病室を明るくしたくて、必死に笑うんだ。  だけどたまに無性に目を背けたくなる。  『信じてあげてください』。  あの医者は、そう言った。  信じてるよ。  信じてるさ。  だけど信じるって、どうしてこうも言うのは簡単だけど事実そうすることは難しいものなのか。  あの扉を開けるとき、俺はいつも無意識的に祈ってしまう。  きっと、今日。  今日この扉を開けたら律はまた『学校さぼるとかバカなのに大丈夫なのー』なんて憎まれ口で迎えてくれる。  きっと、きっと。  今日、開けたら。  今日・・・開けたら。  そんなことを繰り返し、そんな淡い期待が裏切られる度、虚しさが俺を蝕んだ。  病院のベッドの上でぴくりともしない律を見てれば見てるほど、どうしようもない寂しさが俺を襲った。  こんなのって。・・・なぁ・・・?  逃げ出したくもなるんだよ。  例えそこにいる君がただただ泣いているだけの君であっても。  君がそこにいてくれた、過去に逃げたくなることだってなるんだよ。  だから俺はここに来てベンチに座ってただひたすらにジャングルジムの天辺を見上げてた。  ただぼーっと、見つめ続けた。 「うわぁぁぁんっ!!こわいよっ!!!!!こわい・・・たすけてっ!!おとうさん・・・おかあさぁんっ!!!!!」  びっくりした。  びっくりしすぎて見つめてた先に子どもがいたことに気付きもしなかった。  そもそもその子がいつここに来たのかも知らない。 「だから登っちゃだめだって、言ったのよ・・・。もうっ」 「大丈夫、今助けに行ってやるからなー」  ジャングルジムの四段目で泣きじゃくる女の子。
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