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どうやらその子は両親と一緒にここに来ていたらしい。
下で見ていた父親がすぐに抱き抱えて降ろしてあげていた。
・・・なぁんか、懐かしいな・・・。
その光景に過去の自分を重ねて小さく笑った。
思い出す。
俺もあそこの天辺から、降りられなくなったときのことを。
・・・まぁ俺の親父はあの子の父親みたいに優しくはなかったけどね。散々いじり倒されてやっと降ろしてくれたんだけどね。
『なんだよお前、こえーのか?こえーのか?』
おとさんは泣き出す一歩手前の俺に父親あるまじき言葉で畳み掛けてきた。
『・・・こ、こわくねーよ、バカっ』
俺もむきになって言い返す。
ガキだったから。
俺は。
おかさんの前では絶対に情けなくなりたくなかった。
『そうか。じゃあ降りてこいよー。ほれほれ』
『ちょっ、くそじじいっ!!ゆらしてんじゃねぇよっ!!』
なんと、必死に降りようとしている我が子に自らの足で妨害してきやがったのだ。
『くそじじいだってさ。母さんそんな子に育てた覚えはありませんっ』
『おまえはおかさんじゃねぇだろうがっ!!』
『お父さんっ、いい加減にしてよ。怖がってるじゃないっ』
『はいはい。すみませんでしたー。ほら、康介。降ろしてやるから』
おとさんの弱点はどうやらおかさんらしい。
おとさんは両手を広げて笑った。
普段はバカばっか言ってるおとさんたけど、こういうおとさんは頼もしい。何だかんだで"おとさん"はおとさんだってこと。
『・・・あり、がと』
『ありがとうございましただろうがー。まっ、俺がお前くらいのときはあの倍は登ってたね』
『うそつけよっ!!そんなでかいジャングルジムがどこにあんだよっ!!』
『嘘じゃねぇよ。お前今度幼稚園で遠足行くだろ?その公園にあっから登ってこいや。まーあ、登れたらの話だけどなー。ガハハッ』
『のばったるわ!!』
『ほぉー。証拠写真楽しみだなー、この弱虫毛虫がどこまで登るのか。な、母さんも聞いたよなー?』
『つよむしだボケッ!!』
『ガハハハッ!!んだよつよむしってーっ!!あーうけるっ!!』
『お父さんっ。あなたがそんなだからこの子がこんな言葉遣いしちゃうのよ』
おかさんの、鶴の一声。
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