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その日君は、泣いていた。
その小さな体を震わせて・・・。
ここは誰もいないから泣きたいときには思いっきり泣かせてくれるし、遊びたければ、自由に好きなだけ遊ばせてくれた。
この場所は優しくて頼もしい、おとさんとおかさんみたいな場所だった。
川前公園、何かあればここに来た。
今日はおかさんに散々叱られて、かっとなってつい家を出てしまったものの、正直行く宛もなく行き着く果てはここだったのだけど。
『・・・ちぇ、なにもそんなにおこることないじゃんよ・・・』
吐き捨てるように呟いて足元に転がる小石を蹴っとばす。
たしかに、おつかいをなまけたおれがわるいかもしれない。だけど。だけどさ・・・。
『そんなにおこるこ、と、ない・・・じゃ・・・ん?』
驚いた。
めずらしこともあるんだな。
人がいたんだ。
俺が二度と登らないと誓ったジャングルジムの天辺に。
それも、女の子。
年は多分、俺とそんなに変わらない、女の子。
・・・泣いている、女の子。
小さな体を、震わせて。
ぎゅって、体縮めて。
だけど変なんだ。
子供はもっと大きな声で泣くんだよ。でも。その子はシクシク泣いていた。声を押し殺して泣いていた。それはそれは、苦しそうに。
ずっと一人で、泣いていた。
それがあまりに苦しそうに見えたから?
その子が寂しそうに見えたから?
分からない。
分からないけど、俺は泣いた。
そんな君を見て、無性に泣いた。
身体中当たり散らすように。
ただ一つ、心臓が張り裂けそうになった。だってどうしてか君と始めて会った気がしなかった。
ずっと、ずっと、探してた人にようやく会えた。
そんな気さえしてしまってた。
だから、彼女に出会ったその日から俺は毎日そこに行った。
彼女は毎日そこで泣いてた。
そこがジャングルジムの天辺だったからと理由を付けてその子に話しかけたりはしなかった。
あくまで、ジャングルジムの天辺だから。
そう。ジャングルジムの、天辺だから。
そんなんだから、声をかけたことも、顔を埋めて泣いていたから顔を見たことさえもなかった。
その子はいつも俺より先にそこにいて俺より長くそこにいた。
その子の髪は、長かった。
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