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「へー。だけどなんか、それは買った気がする。・・・うっすらとだけど。多分・・・うん、買ったよ?・・・確か」
「えぇ。買ってきてくれたわよ」
「え・・・?なら何に怒ったんだよ・・・」
「お使い頼んだとき残りのお金で好きなもの買っていいよって言ったのよ」
「うん。それで?」
「そしたらこうちゃん、御菓子たくさん買いたいからって頼んだ野菜まさかの一つづつしか買ってこなくて・・・正直母さん、怒るより先に笑っちゃった。でもなんかだんだん腹立ってきちゃって。あ、でもそれはほとんどお父さんが勝手に釣竿買ってきたののとばっちりだったんだけどね。はははっ」
「『はははっ』じゃありませんがな。・・・でもま、ちょっとおもしろいな。そのエピソード。・・・聞かせてあげれば良かったよね」
「うん?」
「母さん、知らないだろうけど・・・その日ここで、始めて律に会ったんだよ。・・・律、泣いてた・・・。・・・あそこで」
ジャングルジムの天辺を指差してそしたらだめだ、泣きそうになった。
「そうだったんだ」
「だけど俺、怖くてさ・・・。ほら、あそこから降りられなくなったことあったろ・・・?だから、怖くて行ってあげられなかったんだ・・・」
「うん」
ただでさえ泣きそうになってた俺が、
「なぁ・・・あの時この話してたら律は笑ってくれてたかな・・・?・・・あの時行ってあげてれば、律は・・・こんなことにはならなかったのかな・・・」
「分からない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
弱音ばかりのこんな俺を、母さんが呆れるでも、幻滅するでもなく優しく受け止めてくれるから。
「だけど次に会ったとき、笑わせてあげたらいいじゃない。母さんがこうちゃんのおもしろエピソードいっぱい教えてあげるから。話してあげたらいいじゃない。大丈夫。りっちゃんはきっと大丈夫」
母さんが、そんなことを言うから。
俺はほんとに泣き出した。
情けない。
でも、これでもずっと泣いてなかった。
律が病院に運ばれてすぐ、母さんに電話したあの一回しか、泣いてなかった。
あれからずっと、眠り続ける君の隣で泣く訳にはいかないって。泣いたらヒーロー失格だって。
君の前では絶対に泣いたり、しなかったのに。
「また『くだらない』って聞いてくれるよ。『面白くない』って呆れてくれるよ」
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