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そしてひとりごちるようにボソッと続けた。
「誰かと恋愛、しておけばよかったなぁ」
ただただ、満面の笑みを浮かべての一言だった。
「なんだよ、もうできないみたいに……」
言いかけて、僕は口をつぐむ。
少女の瞳からは涙が一粒伝った。
「できるわけ、ないじゃないですか。私、左足動かないんですよ? デートだって遊園地みたいな場所も難しいですし、そもそも長く立っていられない。相手に迷惑ばかりかけちゃう……。きっとそれは思った以上にとても大変なことです。だから、もうダメですよぉ……」
ポロッ、ポロッと粒が落ちていく。
「先輩は私の足、見たことないから言えるんです。包帯、外しちゃいけないって言われてたけど、見てしまいました。私の足、傷だらけでした。大きな傷に縫われた跡がありました。けど、これ、絶対に後が残っちゃいます。もう、スカートとか、穿けないです。好きな人と一緒に歩くなんて……できないですっ……」
声に勢いを増して、怒涛のように西条はまくしたてる。
その後、顔を手で覆って、泣きじゃくった。
「西条、ごめん……」
今の一言一言が彼女の本当の気持ちなのだとわかった。
先輩の前で強く振る舞っていたものの、少女の心はやはり少女のものなのだ。
平気なわけがない。
不安な気持ちでいっぱいで、これから先が怖くて、泣きたくて仕方ない。
けれどもこれは現実なのだ。
向き合っていかなくてはいけない。
嫌でも受け入れなければならない。
僕なんかが想像しているよりもそれは過酷なものなのだろう。
「ごめん……」
その日、西条はただ涙を溢していた。
僕はただその姿を見守ることしかできなかった。
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