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何度も何度も、僕たちは彼女に助けられてきたのだ。
「じゃあな、明日も来るから。もし何か欲しいものがあるなら言ってくれ。買ってくるから」
「うーん……それじゃあチョコレート効果95%、お願いします! お母さんに頼んだんですけど、ここの病院の売店、売ってないみたいんですよね」
それはそうだろう。
どこの病院の売店が好き好んであのえげつない苦さしか持たぬチョコレートを置くであろうか。
「西条は変な食べ物、好きだよな」
「えへへ、味覚音痴なのかもしれませんね。料理にも挑戦しているのですが、なかなか成功してくれたことはありません。この間だって家族のお腹を壊してしまいました」
「それ、笑っていうことかよ……」
僕は病室の席を立つ。
サイドボードの上に置かれた置時計は“PM18:02”と記されていた。
窓からは秋頃ならではの紫がかった陽の光が入ってくる。
僕の視線を追いかけて、西條も窓の外を窺っている。
どことなく別れが寂しくなる時間だった。
「じゃあな。また明日」
「はい、また明日も、お待ちしています」
西條は静かに首を傾け、柔和な笑みを浮かべて手を振る。
その声を背に受け、僕は病室を立ち去った。
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