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――放課後のテニス部で遅くまで在庫整理をしている女の子がいた。
後ろに束ねた黒の髪を揺らして、部室の倉庫の中を確認している。
腕時計は夜の7時を越えている。
様子を見る限り、まだ終わる気配はなさそうだ。
「西条」
「……え? あ、今井先輩」
薄汚れた緑のジャージの袖で額の汗を拭きとりながら、西條桃花は振り返る。
「もう遅いぞ。女の子がひとりで帰るのはそろそろ危ないだろ」
「えっと、あともう少し――」
「――って具合には見えないけどな」
「あー」
倉庫の周辺には乱雑に備品が散らばっている。
これを片づけるだけでも一苦労だろう。
西条は宙に目を浮かせている。
「手伝うよ」
「い、いいえっ! 先輩の手を煩わせるわけにはっ」
「けどこの量は……」
「お願いします。私が勝手にやってたことですし、先輩も遅くまで自主練で疲れてますよね? こればかりはひとりでやりたいんです」
決して引き下がろうとしない瞳。
僕は年下の少女に思わず圧されてしまう。
ため息をついて、引き下がるしかなかった。
「わかった。けど、無理するなよ。片付けだって最悪明日に回してくれても構わないんだから」
「はいっ! ご心配おかけしました」
ちょこんと軽く頭を下げると、スイッチを切り替えたように西條は作業に戻る。
だがその後ろ姿はどことなくふらついているようにも、疲れが滲んでいるようにも見えた。
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