第1章

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・思想を語るのは、現実を見つめてから  資本主義とイスラームがまったく相容れないものだとするような中沢の論は、現実のイスラーム金融市場をみるかぎり、机上の空論である。  イスラーム金融の実際を紹介している本のほうが、ずっと具体的に文化と経済の関係について掘りさげているし、素朴な疑問をムスリムに投げかけたときの反応なんかも書かれていておもしろい。  そんなわけで 北村歳治/吉田悦章『現代のイスラム金融』(日経BP社) 畑中美樹『イスラムマネーがわかると経済の動きが読めてくる!』(すばる舎)  このへんはとてもわかりやすいし、おもしろい。  サウジアラビアをはじめとする中東諸国はアメリカ国債の大口の買い手だし、リーマンショック後にイギリスのブラウン首相はサウジやUAEを訪問してIMFへの資金提供などを求めたように、資本主義社会においてイスラームマネーは存在感を増している。  また、中東に限らず、イスラーム金融はマレーシアなど東南アジアにもさかんな国がある。  中沢新一は2002年に単行本として出した『緑の資本論』を2009年に文庫化(ちくま文芸文庫)するときになんでそういうことを加筆、修正しなかったんだろうか……。  個人的には思想や哲学、批評はかならずしも正しさを追求しなくていい"文芸"(ようするに「芸事」)だと思っている。  けれど、それにしてもイスラームのすばらしさをたたえようという本の意図に反して、現代のムスリムのありように対する誤解を広めることにしかなっていないのは、まずいんではないだろうか。
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