第1章

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・中沢が無視した、現に存在するイスラーム金融の手法  たとえば「ムダラバ」という、投資ファンドのように出資者(投資家)が事業家にお金を提供し、事業家はさらにプロジェクトなどへ投資、運用する仕組みがある。  そこからあがった利潤を出資者にも還元する。  資金提供者も元本保証されているわけではなく、事業がコケたら出資者も損をかぶるスキームを使う。 「ムシャラカ」は共同出資のスキームで、たとえば銀行が2割、銀行の顧客が8割ずつカネを出しあって事業を行い、やはり損益を配分しあう仕組み。  このへんはまあ、利子の禁止に該当しないことは普通に納得できるだろう。  おもしろいのは自動車ローンみたいな「ムラバハ」である。  たとえば100万円のクルマを売りたいAさんと、買いたいがすぐには支払えないBさんがいたとする。  このとき銀行がまずAにお金100万円を払って買う。  で、クルマをBに受け渡す。  Bは一年後なり分割払いにするなりで、あとから銀行にマージンを上乗せして110万円払う、という仕組みだ。  銀行は事実上10%分の利子を取っているようなものだが、やっていることは転売(実物取引)なのでこれはシャリーア適格になる。  中東ではこのムラバハがイスラーム銀行の貸し出しの6~8割を占めるらしい。  さらには、くわしいスキームの紹介ははぶくが、リバーの禁止にあたらないよう土地や建造物などの裏づけをもつイスラーム債券(「スクーク」)まである。  ようするに、欧米の金融にあるような金融商品や手法の代替物は、今日のイスラーム社会にもけっこうある(もちろん豚肉の取引や性産業、お酒、武器に関するビジネスへの投資は宗教的な理由によって禁じられているとかいった特徴もあるけれど)。
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