自覚

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俺の発言に、アヤナさんは視線を伏せて口を紡ぐ。 しばらく無言の状態が続き、いい加減話を変えた方が良いかと思い始めた俺の横で、伏せていた目を上げ、リックたちと戯れる子供たちへと視線を注ぎ始めた。 「私はね、家の仕事から逃げたの…」 むしろ話題を変えたのはアヤナさんの方だった。 俺は口を挟もうか考えたが、独白に似たトーンだった為、無言で先を促す。 「私はどうしても家の仕事が好きになれなかった…。小さい頃から看板娘だって囃し立てられて、笑顔を振りまいていたけど、大きくなるにつれてそれが苦痛になっていって…。勿論両親の事は尊敬してるわ。でも、宿の経営者という職業は、私には向いていなかった」 「じゃあ、軍の兵士に志願した理由は?」 「なんとなく」 「…え、は!?」 「ふふ、変でしょ?…面接ではそれらしい言葉を並べて、特に期待もせずに通知を待っていたら合格しちゃってたの。その時は喜びよりも申し訳なさの方が凄かった。だって、私なんかよりも志を持った人たちが大勢試験を受けたのに、合格した中に私みたいな、”なんとなく”で合格した人間がいたら恨むでしょう?こんな事なら受けなきゃ良かったって思ってたんだけど、現実はこの有様……」 「で、でも、一般公募で試験に受かるなんて、並大抵の努力じゃ…!!言っちゃあれですけど、碌に教育を受けていない片田舎の人間が受かる程度の試験じゃない筈ですよ!!」 そんな事で受かる人間に、ティリスもそうほいほいと”外の真実”を伝えないだろう。 「私、昔から頭だけは良くて…。その上この見た目でしょ?物静かに微笑んでいれば、大抵の事はどうにか出来てたから…。それに、お金の手当ても良かったし、こんな機会棒には触れないなって」 「…確か、軍から毎年、親族に手当て金が入るんでしたっけ。その上、軍務中に負った怪我に掛かる治療費も軍が持ってくれるとか?」 「えぇ。もう一平民としては考えられない高待遇。…親が用意してくれた道から外れた私としては、少しでも楽をさせてあげたいって思って軍に入ったの。……もう、そう言った時の両親は顔を真っ赤にして怒ったわ。あんな鬼みたいな顔をした両親見たの初めてだった。”娘が親の目を気にして将来を決めるんじゃないッ!!”って」 思い出したのか、アヤナさんは少しだけ元気を取り戻したようにはにかんだ。
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