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あれから祥子がうちの店の前を通ることはなかった。私はまた恐怖に襲われていた。祥子の相手がもし遼平だったら、遼平はどうするのだろう。自分の子供だと知れば私を捨てて祥子のもとに行ってしまうのではないか。それを思うと遼平に祥子が臨月であることと、その父親が誰であるかを尋ねることはできなかった。 『遼平、もし私一生妊娠できなかったら』 『まだ諦めるのは早いだろ。それに毎回避妊具なしっていいよな』 『あのね』 『そんなに子供が欲しいなら、俺が他の女に子種をまいてこようか』 『バカ言わないで!』 『冗談だよ』 遼平は涼しい顔をして缶ビールを煽る。 *** 5年後、私はようやく妊娠した。長い5年間だった。やっと授かった子供を最優先にするべく、仕事はすぐにやめた。そのころにはもう、祥子の存在など忘れていた。無事に元気な男の子を出産して育児に専念していた。遼平の仕事も順調で、次のステップを考えて別のエリアに異動し、トントンと階級を上げていた。30という年齢を過ぎて、これからが社会人としての正念場だ。生まれた息子も順調に育ち、4歳。幼稚園に入園し、私は専業主婦を謳歌していた。遼平の好きな豚バラ肉の煮込み、悠斗の大好きなグレープフルーツを買い込んで、涼もうとしたところで彼女が現れた、高井祥子。私の脳は一気にクールダウンした。いやヒートアップした。どうしてこうも彼女にかき乱されるのか、幸せになろうとして努力しているところにひょいと姿を現して、私を脳から破壊していくのか。関わりたくなくてそそくさと店を出たが、私は立ち止った。
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