355人が本棚に入れています
本棚に追加
まさか……こんなところに。私はストローに口をつけたところでフリーズした。
自宅近くのショッピングセンター、駐車場のきわにファーストフード店がある。天気の良い昼下がり、客席は幼子を連れた女性やリタイヤした年配の男性などで半分近く席は埋まっていた。特売の豚バラ肉とグレープフルーツを大量に買い込んで、汗をかいた体をアイスコーヒーでクールダウンさせようと席に着いたところだった。
駐車場に面した壁はガラス張り、1台のコンパクトカーから降りてきたのは黒いパンツスーツの女。金に近い茶髪のボブに細く白い首、大きい輪のゴールドのピアスをジャラジャラと揺らしながらこちらに歩いてくる。高井祥子、多分そうだ。10年ぶりだが、私が彼女を見間違えるはずはない。祥子は私のいるファーストフード店に向かって真っ直ぐに歩いてくる。駐車場からはぎらつく太陽の反射で中はうかがい知れない位置関係にはあるから、私には気付いていないと思う。
リングピアス同様に腰を横に大きく揺らし歩く彼女は、自動ドアが開くとカツカツとヒールの音を響かせてカウンターの列へ並ぶ。マリリンモンローを真似る歩き方。あれから10年も経つのに目尻にシワも頬にはシミもなかった。身長は155センチと低め。体の線は針金のように細く華奢で、体重は43キロと以前に言っていたが変わりはないようだ。そのくせ胸はCカップと張り出していて、背さえあればモデルになっていたであろう、見たくれだけはそんな高水準の女だった。
最初のコメントを投稿しよう!