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私は幼稚園に電話をして延長保育をお願いした。そしてファーストフード店の前に戻り、中にいる高井祥子の様子を窺った。 目が合う。私は顎をしゃくって彼女を外に呼び出した。裏手は川が流れている。幅10メートルほどの中流域だ。そこに彼女を誘導し、土手を下りて立ち止った。川面を眺める。残暑の厳しい暑さ、川面からの太陽の照り返しは眩しく痛い。ほんの数分歩いただけなのに汗ふきだして肌はじっとりとした。土手沿いに茂る桜並木にたかる蝉の声がぎゃあぎゃあとうるさい。 「何ですか、宮原さん」 「どうしてここにいるの」 「別にいいじゃないですかぁ」 「ねえ、遼平を狙ってやってきたの?」 「違います。仕事。たまたま出張ですからぁ、泊りの」 「泊り?」 「化粧品の訪問販売をしてるんですぅ。宮原さんもどうです?」 そういえば遼平は今夜は遅くなると言っていた気がする。最近は遼平の行動もあまり気にしてはいなかった。悠斗のことも可愛がってくれるし、女の匂いがしないこともなかったが、遊びならそれでいい。家庭が一番という遼平の生活態度に、そして祥子が現れなくなって、私は警戒心を次第に解いていった。なのに、もし、その女の影が祥子だったとしたら……。
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