第一章・ーあかないー

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 それとも、ここは建前だけの“家”というやつで、人間ごときが入って良い空間ではないのだろうか?  敷居というか、フェンスもないので入ろうと思えば簡単にそう出来る。  なのに何故か私は、律儀に門扉を通り玄関から入ろうとしているのだ。  なかなか見付からなくて、途方に暮れて線路沿いまで戻ると丁度良く電車が通る。  冬の日の、あまり夕方の時間が長くないこの季節には、暗くなるには充分な時が過ぎていた。  だから外灯もない道では電車のライトだけが頼りで、通った際に僅かに廃屋が照らし出された瞬間、今まで散々探した場所にようやく門扉を発見したのだった。  ゆっくりと近付いていくと、確かにそこに在る。  錆の手触りと剥げ具合から、随分昔のものだと見て取れた。  とにかく入ってみようと押すと、意外にも錆の抵抗に負ける事なく、実にあっさりと開いてしまう。
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