第一章・ーあかないー

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 ーー中は何もなかった。  部屋を歩き回ってみたが、何もぶつからなかったし、何も踏まなかった。  だから戻って目の前のドアを開けた。  こちらも同じように、何もない。  拍子抜けして三度廊下に出ると、また奥へと進む。  少しして、電車が線路を走り抜けたのか家ががたがたと揺れた。  少し漏れてきた明かりを頼りに突き当たりに辿り着くと、右手から良い匂いが漂ってきた。  ……空き家と思っていたのだが、やはり違うのだろうか? 何か食事の美味しそうな匂いで、ならば土足で入り込んだのは失敗だったかと、謝ろうとした。  今度は対向車線から電車がきたらしい。明かりが人影を照らす。まるで影絵のように、こちらを向いた状態で、ゆらりと闇に紛れて見えなくなる。  どきりとした。  急に恐怖が身体を乗っ取り、金縛りになったように動けなくなる。
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