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……待て。私は今、何を思った?
何を、こんな家は知らない。こんなやつは知らない。あんな出来事も知らない。誰も殺していない。私ではない。私では……。
ーー死ね!
意識が薄れていく。
その中で思い出したのは、最期の時まで抵抗しようとする人影を、容赦なく突き飛ばした手の感触だけであった。
意識が薄れていくような、微睡みのような、優しい心地に目をひらく。
そこは居間のようだった。
そこに立つ意味が分からず、部屋を見渡すと襖があった。
襖を開けて廊下に出ると、向かいの部屋にある窓からこちらを覗いてくる人影が在った。
この家を気に入っているので、人影にここまでこられると困る。
一体どうすれば諦めてくれるだろう。
しばらくは悩んでいたが、やがて妙案を思い付く。
幸い今は深夜で他に人の気配もない。そしておあつらえ向きに、やつの背中には線路があるのだ。
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